存在の病、あるいは孤独な絶望者の手記

存在の病、あるいは精神的地下室の手記

ネガティブでコミュ障で内向的な自分に悩む男の精神的リハビリ雑記ブログ

ソウル・ポート【短編小説】


文字数:約8000字
テーマ:死後の世界、自殺したらどうなるか?
keyword:魂、死後、ポイント制、輪廻システム


※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。






死んだ者の魂をあの世へ輸送するところ、それが魂港(ソウル・ポート)である。


死んだ者は皆、あの世へ行く前にそこで入場検査を受けなければならない。いわば空港における入国審査のようなものである。






──春夫は緊張した面持(おもも)ちで検問ゲートをくぐる列にならんでいた。


ゲートは金属探知機のように、引っかかると自動的にブザーが鳴る仕組みになっている。


といっても、我々はもう死んでいるのだから、金属はおろか肉体すら持ち合わせてはいない。


ここでは手荷物が検査される代わりに、我々の魂が背負う「罪の重さ」がチェックされるのだ。


罪の重いものは検問に引っ掛かって地獄行き、そうでなければ天国へ行ける。






死んだ者の魂たちが、次々とゲートをくぐっていく。


春夫がならんでいる間にブザーが鳴った者はいない。


本当にちゃんと作動しているのだろうかと春夫は訝(いぶか)しく思った。


ゲートの両脇には人間の姿をした検査官が一人ずつ立っていて、通過する者たちに厳しい眼差まなざしを向けている。


彼らのものものしい様子を見て、春夫は余計に緊張した。






列は順調に進んでいき、春夫の順番になった。


春夫がゲートを通過すると


ブビーッ


というなさけない機械音が鳴り響いた。


ゲートの頭に取り付けられていた赤い電灯がちかちかと点滅する。


春夫は硬直した。


気が動転して、頭が真っ白になる……。


すると二人の検査官がやってきて、春夫の両脇をがっしりとつかんだ。


二人はそのまま春夫を「尋問室」というプレートが掲げられた部屋へと連行していった。



「ちょ、ちょっと! どこへ連れて行くんですか? や、やめてください! 地獄なんて嫌だよぅ」



連れて行かれる間、春夫は大声でわめき散らした。


突然の出来事で頭が混乱していた。


順番待ちをしていた他の死者たちは、冷ややかな態度で、あるいは憐あわれむような目でその様子を眺めていた。






──尋問室に入ると、細長いテーブルを挟んで尋問官が腰を下ろしていた。


鼻下に立派な髭を蓄え、丸い黒縁の眼鏡をかけた、紳士風の中年男である。


春夫は青ざめた顔をしながら彼の前に座った。



「あの、僕はどうなってしまうのでしょうか?」



春夫は尋ねた。


テーブルには一台のノートパソコンが置かれてある。


尋問官は「まぁ待て」と言ってパソコンのキーボードを叩いた。



「さて、まずは君の魂に刻まれている情報を読み取らせてもらうよ」



そう言うと尋問官は、バーコードリーダーのようなものを取り出して春夫にかざした。


ピッという音が鳴る。


尋問官は再びパソコンの画面を睨みながらキーボードを素早く叩いた。



「ふむ、なるほど」



鼻下の立派な髭をなでながら尋問官は春夫に向き直った。



「君は自殺をしたようだね」



春夫はぎょっとして目を見開いた。


しかし何も言うことができず、黙ってうつむいた。



「自殺はいけないな。大変な罪だ」



春夫はうつむいたまま沈黙した。


唇が少し震えだした。



「……まぁ、君が話しづらいのなら私から話そう。君の魂のデータは解析させてもらったからね。
それにしても世の中ずいぶんと便利になったものだ。ひと昔前ならいろいろと質問をして、君の生前の行いを聞き出さなければならなかったものだが、今ではこのとおり、機械をちょっとかざすだけで、あらかたのことはわかってしまうのだから」



尋問官は眼鏡をはずして白いきれいなクロスでレンズを拭いた。


おもむろに咳払いをして眼鏡をまた掛け直すと、彼はパソコンの画面を見ながら話し始めた。



「小田原春夫。24才。日本国籍。東京都***市***町出身。
君は職場でいじめられていた。それだけが原因というわけではないが、日々の心労が積み重なり、生きることが嫌になった。
それで昨日の夕刻、以前から目星をつけていた近所の団地の一棟へと赴き、西側階段の7階と8階の間の階段の踊り場へ立った。
しばらくそこから夕日に照り映える美しい富士山を眺めたあと、手すりから身を乗り出して人気のない建物の裏の路地へ向けて飛び降りた。そうだろう?」



春夫は驚いた。


まさにその通りの行動をしたのだ。


本当に機械をかざしただけで、自分の生前の行いが見通されているようだった。



「あの、それで僕はこの後どうなってしまうのでしょうか?」


「無論、地獄行きだ」



ひぃ、と春夫は小さな悲鳴を上げた。


背筋が凍りつき、絶望感に打ちひしがれた。


春夫が唯一すがることができた、天国という救済への希望が閉ざされてしまったのだ。


暗澹(あんたん)たる思いが一挙にこみ上げてくる。


顔はますます青ざめ、目には涙が浮かんだ。


死ねば救われると思っていたのだが、やはりそんな考えは甘かったのだろうか……。


今更ながら自殺をしてしまったことを春夫は後悔した。






すると、尋問官は生真面目そうにしていた表情をさっと変えて、微笑を浮かべた。



「まぁ、落ち着きたまえ。今のは冗談だ」


「冗談?」


「そうだ」



いまにも大泣きしそうな春夫をなだめるように、尋問官は穏やかに頷うなづいた。



「実はいま、地獄は閉鎖されていてね。罪を負った者がそこへ行くことはないから、安心したまえ」



自嘲するような笑いをこぼしながら、尋問官は言った。


春夫はその意味するところがいまいちつかめず、安心してよいものか計りかねた。


その様子を見て尋問官はさらに言葉を続けた。



「いやなに、ここ半世紀の間にこちら側の世界でも『人権』というものが盛んに唱えられるようになってな。地獄での死者の扱いに関して議論が噴出するようになったのだよ。
それまで地獄というのは、我々一般職員の目の届かない無法地帯になっていてね。監督官による死者たちへの暴力、虐待が横行していたんだ。
地獄の本来の役割というのは、生前に罪を犯した者たちを悔い改めさせる場所のはずだろう? 監督官の仕事はそうした者たちの罪を問い、反省を促し、過ちを改めさせた後、彼らの魂を下界へ送り返すことのはずだった。
しかし、地獄が一般社会から隔離された閉鎖空間であるのをいいことに、監督官たちは自分らの好き放題をしていた。まるで鬼にでもなったかのように、悪逆、乱暴の限りを尽くしていたんだ。
それでも『人権』という考え方が広まる前までは、だれも地獄の様子など気にも留めなかった。人権思想が普及し出すと、地獄に対しても一般職員たちのチェックが入るようになってな。すると地獄での凄惨(せいさん)な状況が次々と表沙汰になったのだ。
それから十数年かけてさまざまな議論が交わされてね。最終的に地獄という制度は、人道的に問題があるとして廃止することになったのだよ。
今から三十年ほど前だったかな、《神託統治委員会》──まぁこちら側の世界の立法兼行政組織みたいなやつだな、その委員会が地獄の廃止を正式に決定し、執行したのだ。
だから現在では、君のように生前に罪を犯した者たちが死後、地獄へ送られるようなことはない。わかったかな?」



春夫は目がくらむような思いがした。


あの世というのはもっと単純な仕組みでできているのかと思っていたが、そうでもないらしい。


自分が生きていた世界と似たような問題がこちら側の世界でも繰り広げられていた。


あの世といえども、何だか人間臭い世界だなと春夫は思った。






「では、僕は天国へ行けるのですか?」



春夫は期待を寄せながら、おそるおそる尋ねた。


しかし尋問官はゆっくりと首を横に振った。



「ところが、そういうわけにもいかないんだな。地獄がなくなったからといって、罪を犯した者まで天国へ行けるなんて、そんな馬鹿な話はないよ。
もともと罪を負った魂は地獄へ収容され、罪を改めた後、下界へ帰って再び新たな人生をやり直すことになっていたのだからね。
だから君もしかるべき手続きを済ませた後、また下界へ戻って新しい人生を始めてもらうことになるよ」


「エッ……」



春夫は耳を疑った。


尋問官の言ったことが上手くのみこめなかった。


いや、そうではなく、正確には聞き入れたくなかった。


──人生のやり直し。


春夫にとってそれは心臓が圧迫されるほど重くのしかかる言葉であった。


……なんということだ。またあの辛い現実世界に帰って、生き直さなければならないなんて……。



「そ、それは……嫌です」



春夫はつぶやくように、しかし尋問官には聞こえるように言った。



「嫌? それは下界に帰ることが嫌ということかな?」



尋問官は穏やかな口調で言った。


春夫は小さく頷うなづいた。



「ふむ。君はよっぽど下界が嫌いなようだな。だが、君の意向は受け入れられない。
そもそも君は罪を犯した者なのだ。罪人の希望が自由に通るなんて馬鹿な話はない。
もしかしたら自殺は軽犯罪程度のものと君は思っているのかもしれないが、しかし、こちら側の世界では、自殺した者の魂は平時に人殺しをした者の魂と同じくらいの重犯罪者として扱われる。
なぜかって?  ……それが決まりだからだよ。《神託統治委員会》が決めたことだからさ。彼らの決定は神の意志と同じこと。だから『神託』と呼ばれている。
神の意志には何者にも逆らえない。
といっても、《委員会》に意見することはできるがね。議論をするのは我々一般職員の自由であり、権利であるが、最終的に決定を下すのは彼ら《委員会》だ。
その《委員会》が自殺は重罪と決めたのだから仕方がない。だから君のように自殺してこちら側に来た者は、人殺しと同じ重罪者として扱わなければならない。
以前であれば無論、地獄行きとなっていたのだが、さっきも言ったように今では地獄は廃止となっている。
そこで、地獄の代わりにつくられたのが『ポイント制度』だ」


「ポイント制度?」


「そうだ。……と、それの説明の前に、こちら側の世界の事情についてもう少し付け加えて話しておこう」



尋問官は一息ついて、テーブルに置いてあったお茶をすすった。


春夫にもお茶を差し出したが、彼は身体のない魂なので飲めなかった。



「……地獄が問題を抱えていて廃止になったのはいま話した通りなんだが、実は天国にも解決すべき問題があってな。
……実は天国はいま、入居者の満員状態なんだ。つまり、善良な死者の魂で溢(あふ)れかえっていて、これ以上の魂を天国に収容するのが困難な状況なんだ。
天国といっても無限に広いわけではない。現在、天国の拡張工事が進められているが、進捗状況は芳(かんば)しくないらしい。
いかんせん、こちら側の世界の職場はどこも人手不足でね。なにせ下界ではここ2世紀の間に人口が爆発的に増加したが、こちら側の世界ではほとんど人口が変わっていないからな。対処しなければならない死者の数が増える一方だよ。
特に20世紀に入ってからが大忙しだ。二度の世界大戦で大量の死者が出て、その後も粛清だの虐殺だの紛争だのテロだのが起こって、コンスタントに大勢の死者がこのソウル・ポートにやってくる。
まだコンピュータがなかった時代には本当に大変だった。毎日毎日ほとんど寝ずに仕事に明け暮れたものだったよ。
……まぁ、そんな苦労話はここですることではないな。
そんなわけで天国はいま満員御礼。地獄も廃止。死者の魂の行き場であるはずのあの世がもう定員オーバーなんだ。
だから、これからやってくる死者の魂は天国の拡張工事が進み次第、順次入居してもらうことになる。しかし工事が行われている間、君たち死者の魂をここで待機させておくわけにはいかない。
そこで委員会は『ポイント制度』を導入して、死者の魂をすべて下界に帰すことにしたのだ。生前に罪を犯した者もそうでない者も、死んだらまた下界で生まれ変わって新たな人生を始めてもらうことにした、ということだ。
簡潔にいえば『輪廻転生りんねてんしょう)』だな。輪廻転生の概念をシステム的に導入したのだ。
といっても、ただ皆等しく生まれ変わるだけでは不公平だろう。生前の行いが次の人生に反映されるようにしなければならない。罪を犯した者にはそれ相応の罰が、善良に生きたものには報酬が与えられるようにしなければならない。
そこで考案されたのがポイント制度だ。これは人々が下界で生きた年数に応じて、死亡時にその人の魂にポイントが加算される制度だ。
例えば、80年生きた者には80ポイントが、50年生きた者には50ポイントが、死んだ後に加算される。ポイントは貯めておくこともできれば使うこともできる。
何に使うかというと、それは次の人生を有利に生きられるようにするための、さまざまな『オプション』の購入に使うことができるんだ。
例えば、容姿端麗に生まれるオプションとか、音楽や芸術の才能を持った人間として生まれるオプションとか、異性にモテるオプションとか、ポジティブな人間になるオプションとか、病気になりにくい体をもつオプションとか、人一倍の記憶力や計算力の頭脳をもつオプション、等々といったものだ。
購入したオプション情報はその人の魂に刻まれ、下界で生まれ変わったときにその人の遺伝子に反映される。
あるいはポイントを貯めておいて、天国への優先入居権を購入することもできる。委員会の決定によれば、300ポイント貯まった者から優先的に天国へ行くことができるそうだ。もちろん、天国の拡張工事が済んでからの話だが。
このように、ポイントは人々の魂がより良い人生を歩めるようにしたり、天国へのパスポートを入手したりするための、いわば富としての役割を果たす。
もちろん、このような特典は下界で<まっとうに>生きた者にのみ与えられるがね。
つまり罪を犯さず、最期まで善良に生きた者の魂だけが、死後にポイントを加算される。
反対に、生前に罪を犯した者には相応の罰が与えられる。死んでもポイントがつかないのは無論であるが、ペナルティとして次の人生に<負のオプション>が付加されることになる。
具体的には何かというと……すまんがこれは秘匿(ひとく)事項なので言えない。ただ、次の人生では他の人に比べて何かと恵まれていなかったり、あるいはハンディキャップを背負わされたりすることになるのは確かだ。
つまり、罪を犯した君はこれから下界へ帰って、ペナルティを負った状態で次の人生を始めてもらうことになる。
……どうだい? こうしたポイント制度を導入することによって、因果応報が成り立つ公平な輪廻システムが構築されたわけだ。
もちろん、このシステムを築くためにはコンピュータ・テクノロジーの発達が必要不可欠だったけれどね。下界でもコンピュータの存在が社会を変えたように、こちら側の世界でもコンピュータによっていろいろなことが変わったよ。
……と、だいぶ話が長くなってしまったな。何か質問とかはあるかな?」



春夫は沈痛な面持ちで尋問官の話を聞いていた。


自分が殺人者と同じような扱いをされることに大変なショックを受けた。


それだけでなく、また現実世界に帰って人生をやり直さなければならないことが憂鬱でたまらなかった。


しかも何らかのペナルティを背負わされた状態で生まれ変わるらしいのだから、なおさらだ。


そうしたらまた、現実世界で辛い目にあうことになるのは必定(ひつじょう)ではないか。


自分の将来はもはや、底なしの泥沼の中へ沈んでいくようなものに感じられた。



「僕は……こんなの、納得できません」


「なぜ?」


「どうして自殺することが罪なのですか? 僕のように現実が辛くなって自殺する人は少なからずいるはずです。そういう人々の魂をこそ救うべきではないのですか?
どうして次の人生で自殺した報いを受けなければならないのですか? どうして前世の罪を引きずっていかなければならないのですか?」



涙を目に浮かべながら、震える声で春夫は訴えた。



「そうしないと、公平な輪廻システムができないからな。残念ながら人間の魂というのは<罰>を設けないと腐ってしまうようにできている。
何の罰則もないとわかったら、好き放題にやりたくなってしまうのが人情というものだろう。
罪を犯そうが犯すまいが、死んだらすべてがリセットされるとしたらどうなる? 罪を犯さず、真面目にまっとうに生きた者たちの魂が浮かばれなくなってしまうだろう。
……あるいは君のように、生きることが辛くなったらすぐ自殺して、何もかもリセットしようと企てる者が後を絶たなくなるだろう。
だからかつては地獄というものが存在していた。地獄の存在が恐怖となって、安易に罪を犯さぬよう人々の心を抑制していたのだ。
魂の倫理的秩序を保つためには、どうしても<罰>が必要なのだよ」


「しかし……」


「しかし?」



春夫はとうとう泣き出してしまった。



「そんな……でも僕は……僕はどうすれば……」



春夫はうつむいて何も言えなくなった。


しばらくの間、春夫の嗚咽(おえつ)の音だけが部屋に木霊した。



「生きろ」



春夫の号泣がおさまった頃合いをみて、尋問官は言った。



「生きろ。最期までちゃんと生きるんだ。
どんなに現実が辛くても、生きて、生き抜いて、最期までまっとうな人生を歩むんだ。
そうすれば死んだ後にポイントが付く。そのポイントを使えば、次の人生はより恵まれた人間として生まれてくることができる。
何度も生まれ変わりながら、その都度、最期まできちんと人生をまっとうするんだ。そうして少しずつポイントを貯めていって、どうにかして300ポイントを貯めるんだ。
300ポイント貯めることができれば、天国へのパスポートが手に入る。その頃には天国の拡張工事も済んでいることだろうから、君は天国へ行くことができる。
そうするしかない。君がするべきことはそれしかないんだ」



尋問官は諭すように春夫に語った。


春夫は目に涙を溜めたまま黙ってうなだれていた。



「さぁ、話は終わりだ。君はこれから『転生ゲート』に向かってもらう。そこで君の魂の解析データを総務局と公安局へ送信する。
しばらくすると、君の犯した罪に対する罰則事項が公安局から君の魂に書き込まれる。
それらが済んだ後、君の魂を下界へ転送する。君は新たにどこかの誰かの母親の胎内から生まれることになる。
……念のため言っておくが、生まれ変わるときに前世での記憶は引き継がれないからな。君が前回の人生で犯した罪──つまりは自殺したことも、ここで私と話した内容も、下界へと転送する時にすべてリセットされる。
君は前世での罪に対するペナルティを負うことにはなるが、記憶はまっさらな状態で新たに一から人生をやり直すことになる。いいかな?」



尋問官はそこまで言うと、テーブルに置いてあった呼び鈴を鳴らした。


すると尋問室の外から案内係がやって来た。案内係は細くて背の高い、若い女性の姿をしていた。



「じゃあ君、この者を32番ゲートまで案内したまえ」


「はい」



案内係は「ちょっと失礼しますね」と言って、機械でできた首輪のようなものを春夫に取り付けた。



「あの、これは?」


「それはボタンを押すとその輪から電気ショックが流れるようになる機械です。
セキュリティ上、転生ゲートに着くまでつけさせてもらうことになっていますので、ご了承願います。ときどき、ソウル・ポート内で暴れ出す罪人の方がいらっしゃいますので……」


「そ、そうですか」


人権という考え方が普及するようになったと言っていたわりには、このような扱いは人道的にいかがなものかと春夫は思った。


だが、仕方がない。春夫はいまや、殺人者と同レベルの重罪者扱いなのだから。


春夫はしぶしぶ、案内係に同行することにした。


部屋を出る前に尋問官が春夫を呼び止めた。



「余計なお世話かもしれないが、最後に言っておく。どんなに現実が辛くなっても、自殺はするんじゃないぞ。人の道を逸れることなく、最期まで生き抜くんだぞ。
もちろん、ここで君にこんなことを言ったところで、生まれ変わった時点で忘れられてしまうのだがね。でも、念のため言っておきたかったのだ。
……どうか次にこのソウル・ポートに来たときには検問ゲートに引っ掛からないようにな。じゃあ、達者でな」



春夫は何も言わず、ただ小さく頷うなづいた。


それから案内係に連れ立って尋問室を出た。


 (了)


内向型でネガティブな性格は遺伝子のせいなのか【後編】

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keyword
人生  遺伝的制約  過去  記憶  自我  シナプス  学習  ヘブの法則  神経可塑性  ネガティブな神経回路  習慣  精神的リハビリ  デカルト  世間という大きな書物  唯脳論  永遠回帰  人生の意味のコペルニクス的転回  フロイト  無意識  抑圧  否定の否定  罪責感  自尊心の欠如  回避性パーソナリティ障害  認知の歪み


まえおき


僕はネガティブでコミュ障で自意識過剰などうしようもない人間である。しかし、僕がこんな人間になってしまったのは、遺伝子のせいなのだからしょうがない。僕の染色体に潜む内向型の遺伝子が、僕を内へ内へと引きこもらせてしまったのだからしょうがない。すべては遺伝子が悪いのであって、僕のせいではないのだ──ということを【前編】でネチネチと考えた。


【後編】では、天使との対話を通じて、このような考え方の修正に迫っていきたい。非常に長い記事(※約36000字)ではあるが、お時間のあるときに読んでいただけたら幸いである。


いやいや、どこぞの馬の骨ともわからないような奴のそんなクソ長い記事を、貴重な時間を割いてまでいちいち読んでられないよ! という方もおられるだろう。そんなわけで、本文のエッセンスは「要約」にまとめておいた(要約もだいぶ長くなってしまったが…)。


keywordと目次と要約をご覧いただいて、もし面白そうだと思っていただけたら、本文も参照して下さると嬉しい限りである。(※なお、本記事は対話形式で書いています。そういうのが苦手な方はブラウザ「戻る」ボタンをお願いいたします。)



要約


・人の人生を左右するのは、半分くらいは遺伝的要因によるが、もう半分は精神(意志)によるものである


・人間は過去に縛られる存在である


・といっても、「過去」という時間は人間の記憶の中だけに存在しており、物理的に存在しているわけではない


・したがって、過去に縛られるとは記憶に縛られることであり、記憶が人の「自我」を保っている


・記憶は脳内のシナプスに保存されている


シナプス間隙(かんげき)を神経伝達物質が飛び交うことで、人の思考や情動等が産み出される


シナプスの配線パターンと結合強度こそがその人の「人格」を形成しており、これが自我の正体である


シナプスの配線パターンと結合強度は、学習や経験によって組み換え可能である。これを「神経可塑性(かそせい)」と呼ぶ


・ネガティブな思考ばかりしていると、ネガティブな神経回路が強化されていく。すなわち、ネガティブ思考の「習慣化」が起こる。習慣化とはつまるところ、シナプス結合の強化のことである


・ポジティブシンキングをするためには、頭で考えるだけでは駄目で、実際に行動を起こし、習慣を改め、脳内に新鮮な刺激を送り、シナプスの配線パターンを変えていかなくてはならない


・人生で起こることのすべては、脳内信号に変換されている(唯脳論


・現実世界とは神様の創ったゲーム世界であり、人間は脳というハードウェアを用いて、この現実という名のゲーム世界をプレイしている


・一人ひとりの人間は、このゲーム世界をプレイするいちプレーヤーである。各プレーヤーはそれぞれ固有の【使命】をもっている


・使命を果たすことによってゲームクリアとなり、その人の魂は死後、次のゲームステージへと転送される。しかし、使命を果たさなければ、その人は同じ世界で人生何度もやり直しとなる(永遠回帰


・このように、現実世界はどこまでいってもゲーム世界であり、天国や極楽浄土などというものはない


・死んだらまた次の生が始まるだけであり、「無」になることもない


・ゆえに、死後や彼岸のことにいくら思いを巡らしていても仕方がないのであって、それよりもいまのこの「生」を一生懸命に生きることの方が大切である(人生の意味のコペルニクス的転回)


・ネガティブな自分を捨て去ってポジティブな自分に生まれ変わりたいと思っていても、無意識のレベルでは自分が変わることを恐れ、拒否している場合がある


・それはたいていの場合、過去に何らかのトラウマ経験を抱えており、それが心の奥底に引っ掛かっていて、変わろうとする自分を引き戻そうとするからである


・人間は過去に縛られる存在だからこそ、過去に何らかのトラウマ経験を抱えていると、それが生涯にわたってその人の人生に重大な影響を与え続ける場合がある


・脳の神経細胞(=ニューロン)が死滅しない限り、過去の記憶が完全に消え去ることはない。しかし、だからといってトラウマを克服できないわけではない


・無意識の自分と向き合い、自身の言動パターンを見直し、少しずつ習慣を改めていくことによって、過去の軛(くびき)から自身を解放することができる


・このように、人の人生を左右するのは遺伝的要因よりも、精神的要因によるところが大きい。そしてそれは習慣を改めることによって改善できる。これは遺伝子ではなく、意志の問題である


・総括すれば、遺伝子は隠しパラメータのようなものといえる。つまり、その人の能力の伸びやすさ(素質)を決めるだけであって、遺伝子が人生のすべてを支配しているわけではない


・大事なのは、もって生まれた素質を適切に見極め、自身の能力を最大限に活かしながら、自分に与えられた【使命】を果たすことである


・使命は各人によってそれぞれ異なるのだから、自分の人生を他人のそれと比較しても意味はない。ただ、己の道を真っ直ぐ歩めばそれでよいのである

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内向型でネガティブな性格は遺伝子のせいなのか【前編】

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身体の表面を拡大していくと…



keyword
人生  性格  内向型人間  外向型人間  セロトニントランスポーター遺伝子  HSP(Highly Sensitive Persons:過敏性症候群)  利己的な遺伝子


要約


・僕はネガティブで自意識過剰でコミュ障な人間である


・人の性格は大まかに内向型(内気)と外向型(社交的)に分けられる


・人が内向型人間になるか外向型人間になるかは、ある程度遺伝的に決まる


・例えば、セロトニントランスポーター遺伝子は、脳内のセロトニン分泌量に関わっており、人によってこの遺伝子のタイプが異なる


セロトニンは抑制型の神経伝達物質で、心身の安らぎを感じさせる役割がある


セロトニン分泌量が遺伝的に少ない人間は、不安を感じやすく、内向型の性格になりやすい


・また、人は生まれつき神経過敏な人(高反応)とそうでない人(低反応)とがいる


・高反応型の人間は、臭いや音や他人の心理に過敏に反応するので、些細なことで動揺しやすく、精神的に疲れやすい


・低反応型の人間は、外界の刺激に(良い意味で)鈍感なので、活動的で他者と積極的に関わっていく傾向がある


・極端に高反応なタイプのことをHSP(Highly Sensitive Persons)と呼び、人口内に一定の割合で存在する


・このように、人の性格は遺伝的にある程度決まっている


・僕が内向型で暗い人間になってしまったのは、遺伝子のせいであり、遺伝子のせいで人生ハードモードになってしまったといえる


・しかし、遺伝子にとってみれば、一人ひとりの個体の人生がどうなろうが知ったことではない


・遺伝子は利己的に自らの生存を追及するだけであり、個々の生物個体はその乗り物に過ぎないからである

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この世界は神様が創った究極のVRゲームらしい

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keyword
人生  絶望  現実世界  神様  VR(ヴァーチャル・リアリティ)ゲーム  使命  次の世界


要約


・生きることに虚しさを感じていたら、天使が現れて、この世界や人生の【真実】について語りだした


・曰く、この現実世界は神様のつくった究極のVRゲームである


・人間一人ひとりはこのゲームをプレイするプレーヤーである


・プレーヤーはそれぞれの【使命】をもっている


・【使命】を果たさない限り、人生は何度もやり直しとなる


・使命を果たすことによって、いま生きているこの世界(ステージ)のクリアとなる。そして魂は次の世界(ステージ)へと転送される


・使命が何であるのかは自分で見つけなければならない

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